扉を開くとそこには、見慣れない風景が広がっていた。
マルコは目をこすりながら、周囲を見回す。
そうだ、俺はちょうど旅行中だったんだとマルコは一人つぶやく。そして、自分が「旅行」という言葉を選んだことに対して笑ってしまった。そもそも帰る場所など自分に最初からあったのだろうか。
孤児として育ったマルコ・イェイツは、他の例にも漏れず、いつも腹をすかせて大きくなった。そんな彼の人生の転機は、ふとしたときに学校で提出した一枚の絵だった。おいしそうに焼けたオムレツの絵は、街で評判となり、有名な美術館の片隅に展示される程にもなった。その時、勉強も運動も苦手で、温かい家庭も無かったマルコにとって、デザインは生きる目的の一つとなったわけである。
周囲から期待されてVRデザインの仕事を得たマルコは、そこで壁にぶつかることになる。思うようなモノが作れずに苦悩する上、職場では穀潰しと罵られ、だんだんと自分のことが信じられなくなった。
ふっと職場を抜け、街を出たマルコは、宇宙船に乗り込んだ。行く先なら、どこでもいい。幼い頃の懐かしい記憶や場所なんて、彼にはなかった。着いた先で新しい生活を手に入れれば「元神童」なんて後ろ指を刺されずに暮らせるだろう。
「だけどさ、こんな辺鄙なところに放り出されるなんて」
あまりの唐突な出来事に、マルコは笑ってしまった。
それを聞いたウナイとハインズは、怪訝そうな顔をする。どうやら助かったのはこの三人だけで、これから協力してこの惑星で生き延びなければならないらしい。
あと、私のことを忘れるなといわんばかりに、猫が甘えた声をだす。そうだ、猫も一緒だ。
幸いなことに、宇宙船から放り出されたのはマルコ達だけではなく、非常用食料やわずかな武器や資源も、周囲には転がっていた。とりあえずそれを集めて、どこか雨風を防げる場所に保管しよう。
ちょうど着陸地点の北側に、廃墟となった建物が点在している。木材で応急処置をすれば、手間をかけずに有効利用できるかもしれない。
三人はお互いの身の上話をしながら、黙々と作業を進める。
元気に木を運び続けるウナイは、ちょっとばかり変わった人物のようである。農家の娘として生まれ、爬虫類学者となった彼女は、辺境の惑星でイグアナの研究をするつもりだったらしい。思いもかけず誰も知らない辺鄙な惑星に来れたことを、内心喜んでいるようだ。
ハインズはもともと軍の科学者だったこともあり、知力や医術に優れているようだ。もっとも、寡黙な彼が喋るのはこれだけだった。
黙々と作業を続けた結果、少しばかり手狭な宿舎が完成した。こんなド田舎なのだから、贅沢は言っていられない。当面の食料はあるし、寝る場所も確保できて、マルコ達は安心した。
こうして、マルコ達の新たな生活がスタートした。
社交パラメーター平均0.33...という、人付き合いがとっても苦手な彼らに対し、この惑星はどのような試練を与えるのだろうか。
つづく。