【Kenshi短編1】奴隷商人のボイド
何のために生きるか、自分に問うたことはあるだろうか。
彼の場合、それは金だった。
ボイドという名前に意味はなかった。ただ、稼業を始めるにあたって、覚えやすい単語のほうが良いと思って、自ら名付けたものだ。元々の名前や出身など、どうでもよいだろう。いま彼にとって興味のあることは、自分の財布にはわずか750キャットという、一週間食いつなぐのもやっとの金しかないことだ。
このショーバタイの地で手っ取り早く金を得るには、奴隷商人の真似事が早いと、ボイドは知っている。
この地では奴隷の売買がビジネスとして認められており、帝国経済はもはや奴隷なしには成り立たないありさまだった。この不毛な砂漠で産業を興すことは難しい。砂漠にもありふれて存在するものといえば、人間だった。
ボイドは時折、奴隷商人たちの隊列を見かけた。恰幅の良い彼らを見て、ボイドは思う。自分もいつか仲間を連れて、反乱農民たちを狩りたいと。自分の奴隷キャンプを立ち上げれば、いつか帝国貴族の一員に加わる日もくるかもしれない。
漠然とした夢を抱きながら、彼は街の外にでる。早速、サンドニンジャ達がボイドを見つけ、追いかける。ニンジャたちも考えることは同じである。やせっぽっちの浪人でも、身ぐるみはがせばそれなりの収入になるだろう。
ずるがしこいのはボイドのほうだった。近くいる遊牧民のキャラバンが、ニンジャ達に襲い掛かる。平和に商売をしている人間にとって、無法者はうっとおしい存在でしかない。
ニンジャたちはなすすべなく蹴散らされる。
戦いが終わったのを見届けてから、ボイドはキャラバンに近づく。逃げようとするニンジャの一人を、容赦なく棒で殴りつける。
「もともと卑劣な奴らだ、何をしたってかまわない」ボイドはそう思いながら、手を止めない。
遊牧民が去ったあと、ボイドは一人のニンジャを担ぎ上げた。奴隷商人に一人400キャットぐらいで売れるから、ショーバタイとここを往復すれば1,600キャットは稼げるだろう。
しかし、担ぎ上げた顔の男に見覚えがあった。そう、こいつは帝国から4,000キャットもの賞金をかけられていたのだ。思わぬ幸運にボイドは興奮した。
急いで立ち去ろうとするボイドを見て、まだ息のあった女のニンジャが追いかけてくる。
追いかけてきたニンジャを、民兵に擦り付ける。はやくしないと「商品」が他の連中に奪われてしまうし、構っている暇はない。
「賞金首を捕まえたようだな。報酬が欲しいか?」
「ああ、こいつを連れていけ」
4,000キャットを受け取り、すぐに砂漠へ戻る。
はいつくばって逃げようとするニンジャを打ちのめし、街へと連れていく。
「新しい奴隷を見つけたのか?そいつは400キャットでどうだ」
パン1個ほどの金を対価に、ニンジャは一生を奴隷として暮らすことになった。
3人目を運んでいるときに、また女のニンジャに出くわした。
「息のあるうちに逃げればよいものを」
ボイドが戻ってきた時には、すでに女ニンジャはほかの奴隷商人たちによって連れ去られていた。
奴隷商人の檻が「商品」でいっぱいになると、彼らは近隣のキャンプへ向かう。
ここはストーンキャンプ。建築資材を産出する強制労働所だ。
「奴隷たちを連れてきたぞ」
そういって商人は元締めから金を受け取る。
「餌を与えるのを忘れるなよ!」懐が温かくなった商人は、意気揚々とキャンプを立ち去った。
「今からお前たちに職場を割り当てる」
「逃げようとすればぶち殺すぞ」
「労働のことだけを考えろ」
ボイドが売った奴隷たちは、このキャンプで一生を送ることになったのだ。
ショーバタイに戻ったボイドは、店で防具を買った。奴隷商人を稼業とするならば、いずれ闘いにも慣れなければいけない。せめて防具ぐらい、ましなものを身に着けるべきだろう。
ボイドは街から街へと奴隷を売り歩く。意外にも簡単に商売をはじめられたことに、彼は自惚れてしまっていた。自身の商才と運があれば、いずれ帝国貴族にもなれる、そう思っていた。
彼の運命を知るのは、幾多の人生を見守ってきた、この砂漠だろう。
つづく