Elonaプレイ日記1「記憶喪失の演奏家マルコ」
薄暗い洞窟の中で、俺は目を覚ました。
目の前には見知らぬ男女が立っていて、こちらをまじまじと見つめている。
二人の話によると、どうやら俺は難破した船の乗員で、見つけてもらったときには息も絶え絶えといったありさまだったらしい。
船に乗っていたということは、どこかに向かう途中だったのかもしれない。でも、どこに向かおうとしていたのだろう。まったく思い出せない。
俺の職業は多分、演奏家なのだろう。背中に大切そうにグランドピアノを括りつけているぐらいだ。ピアノのすみっこに「Malko」と彫られているから、多分これが名前なのかもしれない。その響きに懐かしさを感じるし、俺はきっとマルコなんだろう。
しばらくじっと考え事をしていたら、男の方が話しかけてきた。
男はロミアス、女はラーレイネと名乗った。ロミアスは俺を見ながら、一方的に話を続ける。どうやら彼はいわゆるゲーム序盤に出てくるお節介焼きらしい。うん、何も思い出せないし、こうやって世話を焼いてくれる存在はありがたい。話を聞いてみよう。
ロミアスは「メシを食わなければ餓死する」といいながら、まずはこれを食べろと床にモノを投げつけた。
まさか、本当にこれを食えと?
ロミアスは至って真剣な顔をしているし、それに俺が記憶喪失なだけで、この大陸でカニバリズムは当たり前なのかもしれない。郷に入っては郷に従えというではないか。それに命の恩人が言うことだ、ここはおとなしく従おう。そうだ、Eキーを押して...
口の中に奇妙な味が広がり、思わず顔をしかめる。
ロミアス「本当に食べたのか?」
ああ、食べたさ!!
その後も色々ともてあそばれたりはしたけれど、一通りこの大陸で生きる方法を学ぶことが出来た。
彼らは言う、この洞窟を出てすぐに、ヴェルニースという炭鉱街があると。
記憶も無いしやることも無いから、とりあえず街に出てみるのもいいかもしれない。背中にピアノを括りつけて、俺は一路ヴェルニースへ向かった。
何もしなくても腹は減るし、食べていく為には金を稼がなきゃならない。せっかく演奏家を名乗るのだから、バーで演奏でもしてみようか。
俺の甘い考えはすぐに否定された。
バーの扉を開くと、テーブルの周りには血の海が広がっている。
恐る恐る周りの客に聞くと、どうやらロイターという人物の仕業らしい。しょうもない吟遊詩人が演奏を始めた瞬間、ロイターの投石が詩人の脳天を貫く。それを知らないあまたの旅人が、ここで命を落とす。そう、ここは詩人たちの墓場なのだ。
血なまぐさい匂いが漂う中、客達は絶命した詩人を足蹴りにしながら、平然と酒を飲み続ける。その光景を見て、ロミアスに食べさせられた乞食の死体の味を思い出す。
俺はそっとバーを出た。こんなところで演奏したら、命が幾らあっても足りないだろう。
俺は足早に家に戻る。街で再会したペットの犬君を相手に、演奏の練習をする為だ。物悲しいピアノの音色に合わせてどんな歌詞をつむぐか、俺には既に決まっていた。
そうさね、ここは詩人の墓場さね
今日も強肩は石をうつ
脳天貫ぬくその石は
へぼ詩人の墓石にちょうどいい
今日も強肩は石をうつ
そうさね、ここは詩人の墓場さね
―詩人の墓場
犬君がおひねりの2ゴールドをくれる。ありがとう、よく出来たペットだ。
いつかこの曲をヴェルニースにいる本人の前で演奏する。今の腕前では脳天を貫かれるだろうし、旅をしながら鍛錬を続けることにしよう。
こうして記憶喪失の演奏家マルコに、生きる目的がひとつ、見つかった。
果たして彼は旅先でどのような音色をつむぐのだろうか。
つづく