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「お前は奴隷を愛しているんだろう?ならばお前も奴隷になってはどうかね」
殴りかかってきた奴隷商人たちを、マルコは冷静に返り討ちにする。
ここはオクランズプライド、もともとはホーリーネーションの領地だった場所だ。悪名高い宗教国家が無くなって以降、ここは諸勢力の草刈り場となった。
この奴隷商人たちもそうだ。あの険しい顔で街道を警備するパラディンがいなくなってから、旅人を襲っては奴隷として売り飛ばすことで、彼らは生計を立てている。
さらに、地元住民にとってのさらなる脅威は、西方から侵略してくるフォグマンである。
街道の真ん中に堂々と、彼らの邪悪なモニュメントを飾っている。こうした「巣」が街道沿いにずらっと並んでいて、日夜フォグマン達は周辺の都市に攻撃を仕掛けている。
もちろん統治国家側も黙って指をくわえているだけではない。スタックを抑えるシェクは、戦士たちを頻繁に都市の外へと巡回に出しているし、ブリスターヒルに居を構えなおしたフロットサム達も、カニバルとの闘いと同時並行で、フォグマンに対処しようとしている。きっと両者の統治が安定すれば、オクランの地を闊歩する悪人たちも、姿を消すに違いない。
「それまでの助けが必要かもしれないな」
ユニティへと戻る道のりを進みながら、マルコは考えていた。常々彼には思うところがある。それは「何の為に生きるか」だ。
こうしてホーリーネーションの土地を訪れたのも、自分が下した決断が、世界にどのような影響を与えたのか、見て回るためだった。
今やこの地では誰しも性別や種族で差別されないし、あのいびつな皇帝フェニックスの石像建設で命を無駄にすることもない。着実に、人間が人間らしい生活を送れる社会に近づきつつある。その進歩の芽を、しょうもない奴隷商人やフォグマンの群れに摘ませるわけにはいかないのだ。
そのためにマルコ達にできる唯一のことは、戦う事だった。再びユニティの面々は、旅に出る。
「我々は仲間だ。いつもありがとう」
こうして暖かく送り出してくれたブリスターヒルのフロットサムからは、ホーリーネーションの残党がまだ、山間の村に潜んでいることを聞いた。
「死ね!この汚らわしいロボットめ!」
「オクランの光は、私にこの暗黒を振り払うための力を与えたもうた!」
オクランの狂信者たちは威勢よく叫ぶものの、もはやマルコ達の敵ではない。
この拠点を取り仕切っていた異端審問官を捕らえ、シェクの牢屋にぶち込んだ。
それからすぐ、フォグマン退治に出発する。
ちょうど夜だったこともあり、巣の位置は遠くからでもしっかりと視認することが出来る。街道沿いに光が続いている様を見て、マルコは思う。一刻も早く、フォグマン達を一掃してやると。
巣を一掃するにあたり、彼らの不思議な習性を利用した。「ポールに縛り上げた人間なら、見境なく貪り食う」というものだ。倒れこんだフォグマンを拘束しておくと、遠くからそれを察知した別のフォグマンがやってくる。そして同胞かどうかも気にせず、食事にありつこうとするのだ。
こうしてやってきた「夏の虫」を、一匹ずつ潰していく。
グリフィンは言う。「殺人者たちに慈悲を見せるな。彼らは私たちにそれを見せないのだから」その通りだと、マルコは思う。同族であれその手にかける姿を見ると、彼らに正気があるとはまったく思えない。何が理由で彼らは不可解な殺人を続けるようになったのであろうか。
道中、シェクの巡回部隊の支援も得たマルコ達は、オクランに蔓延するフォグマンの巣を、あらかた破壊することが出来た。
さらに部隊は西へと歩みを進め、フォグアイランドにたどり着いた。ここでもフォグマンの数をできるだけ減らしていくつもりだ。
雪崩のように現れるフォグマン達を、一匹ずつ切り伏せていく。彼らの血で、大地は灰色に染まっていく。
「報復は後味が悪いだろう。しかし、慈悲は弱さだ。殺人鬼をひとり許せば、罪のない多くのものが命を落とすのだ」
マルコ達の手により、かなりの数のフォグマンがその命を散らした。もっとも、どこからともなく現れるフォグマン達の根を絶たなければ、この戦いは終わらないかもしれない。
次にマルコ達は、北へと向かった。以前、バーンと出会ったあの土地の現況を確認するためだ。道中、一行は怪しげな研究所を見つける。
施設の周りを、ドローンのような飛行物体が沢山旋回をしている。その光景を見て、バーンは一人呟く。
「ここは太古の世界の遺産だよ。夢のような技術の産物が、とてつもない量で作られていた。機械が機械を作り、その機械はまた別の機械を作った。最終的には、飢餓に突き動かされたかのような製造工程はもろくも崩壊してしまった。この場所こそ、私が生まれた場所なのだ」
建物の中に入ると、珍しいアーティファクトが列をなして転がっている。一目見てマルコは思った。これは何か怪しいと。貴重な品々が、誰の手にも触れずに床に転がっているはずはない。幾多の遺跡を渡り歩いてきた一行にとって、これは罠であることはあきらかだった。
案の定、罠だった。階上では、腹をすかせたカニバルどもが今か今かと訪問客を待ち構えていたのだ。
多少知恵の回るカニバルだったが、戦闘能力でいえばほかのものと大差ない。静かになってから、マルコは建物の中を探索する。
3Fまで上がると、そこは食人族の檻でいっぱいだった。この檻の数からして、今までカニバルはたくさんの探索者たちをその胃袋に収めてきたに違いないだろう。背筋がぞっとする思いと同時に、義憤を感じるマルコだった。
「何の為に生きるか」マルコにとって明確な答えはまだない。しかし、大陸には残忍な連中が我が物顔でのさばっていて、まだ正されない不公正があると思うと、その撲滅に向けて戦いを続けるのは自身の責務であると、マルコは思う。
外では雨が降りしきっていて、ドローンたちはまだ、建物の周りを飛び回っている。あたかもここで失われた幾多の命を弔っているかのように、マルコには思えた。
つづく