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複雑な思いを胸にハイブの島を出たマルコ達は、次の進路を南に定めていた。
たどり着いたのはクレーターと呼ばれる場所だ。
そこには手付かずの遺跡が眠っていると聞く。
何かの災害の後なのだろう、起伏の激しい地形が続く。
途中、ビークシングと呼ばれる首長竜と、スワンプラプターが群れで戦う場面に何度も遭遇した。
死んだスワンプラプターの肉を、ビークシングが食らっている。両者の力の差を考えれば、よほど数で優位でない限り、スワンプラプターは食われる方になるだろう。
当然、マルコ達にも襲い掛かってきたが、彼らにとっては食料の肉を確保できるという意味でありがたい存在だ。
大所帯を支えるには相応の量が必要になるが、大体4頭から5頭でうろついているビークシングの群れをひとつ狩れば、一日分以上の食料を確保できる。
マルコは肉を剥ぎ取って、キャンプファイヤーで干し肉を作る。
どこからか血のにおいを嗅いだのだろうか、スワンプラプターが群れで現れ、ビークシングの残りを貪っている。
見る見るうちに、ビークシングは小さくなっていく。
出来上がった干し肉を食べながら、マルコ達はその光景を眺めている。大陸広しと言えど、ここまで野生動物の生存競争が激しい場所はないだろう。
スケルトンのバーンはビークシングの死体を見ながら、何故彼らがこのような見た目になったのか想像をめぐらせている。ヒトをはじめ様々な生物にとって、首は重要な神経が通っていて、非常にデリケートな器官である。そのような器官を長くし、ましてや武器のように振り回す必要性が、彼らが生存する上で必要だったのだろうか。
バーンにとっては、ビークシングには、旧世代の人為的操作の跡が残っているように見える。クレーターと呼ばれるこの場所に彼らが特に多いのも、彼らがここで製造された事が原因かもしれないし、点在するラボはその名残にも見える。そして、ここが爆撃を受けた後のようになっているのは、ビークシングの製造を危険視した第三者による攻撃の跡と考えれば、何となく筋が通っているように思える。ただ、これはバーンも自覚しているが、この仮説を支持する証拠は何一つ見つかっていないし、荒れ果てたラボからは何も出てこないだろうとバーンは思っている。
十分に食料を確保した後、マルコ達はラボを探索する。
厳重に鍵のかかった箱ばかりだったが、マルコの解除スキルは相当のレベルに達している。やすやすと箱をあけ、古代の本や、高値で売れる過去の遺物を回収する。
パックブルの荷物も相当な量になったので、マルコ達は一度近くの街によることにした。
クラウンステディと呼ばれる、UCの街の一つである。ちょうどクレーターから南東に位置している。
UCとは決して仲が良いとはいえないが、毎週年貢を納めており、敵対するほどではなかった。ちょうどクラウンステディを訪れる前も、徴税人がユニティを訪れていた。
街に入る前に、仲間の一人がつぶやく。
「役立たずの貴族のデブめ。こんな奴らが本当に存在するのか。やつらに自分達のサイフを食わせたらどれほど面白いだろう」
「とても面白い皮肉だよ。だが口をつぐめ、貴族の護衛に殺されたいか?
「ああ、少し黙っていよう・・・」
そしてクラウンステディの街に入った瞬間、それは起こった。
UCのサムライ達が無言で襲い掛かってきたのだ。
「やめろ、お前達を攻撃する意図はない。その剣をしまえ」
マルコの説得もむなしく、サムライ達は間合いをつめる。
「もはや戦うほかない!」
ストークが剣を抜き、ガードを切り伏せる。
マルコも得意のカラテで、ガードたちを次々といなしていく。
マルコ達に街を襲う意思はまったくなかったが、刃を向けられたのであれば刃で返すほかない。
こうしてクラウンステディのガードの大半を倒した後、マルコ達は街を後にした。
クラウンステディでの戦闘の報は、すぐさま帝国の隅々まで伝わることだろう。UCとの関係はかつてないほど悪化するに違いない。なぜかこの場にいないテックハンターからも、この戦闘が理由で敵対関係になった。つまり、ワールドエンドにはもう無傷で入れないということだ。マルコ達にとっては理不尽極まりないが、こうなってしまった以上しかたがない。
心配なのはヘングのそばにある我らの拠点、ユニティだ。いつサムライ達から報復を受けてもおかしくはないだろう。
マルコ達は一度旅を切り上げ、拠点に帰ることにした。
奴隷解放の為には、いつか帝国と敵対しなければならない。それがただ少し早まっただけだと、この時マルコは自分に言い聞かせるほかなかった。
つづく。