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「アイゴア隊長は死んだ、しかし俺たちは死なないぞ!」
決死の形相でサムライはこちらに向かってくる。当然だろう、大陸一の強者ことアイゴアを倒した連中とやりあおうと言うのだ、ただで帰れるはずはない。
幾本ものクロスボウに貫かれながらも、サムライは死の時まで戦うことを放棄しなかった。
マルコは砂漠を歩きながら、その時の光景を思い出していた。サムライたちはただ、任務に忠実だったに過ぎない。たまたま自分達と鉢合わせしなければ、今も砂漠のパトロールを続けていたはずだ。
彼らの亡骸はもう、野犬やスキマーたちの手にかかって、この地上に存在しないだろう。
いずれ自分達も同じ運命を歩むのだろうか。いつになくマルコは不安な気持ちになった。何かを成し遂げるには、人の一生はあまりに短い。死の淵に立って後悔しないよう、今できる事を精一杯やるほかない。
南東に向かう途中で、マルコには決めていたことがあった。
反奴隷主義者の本拠地を訪れることである。
それは嶮しい山脈の頂上にあるという。
そこでついに、かの有名なティンフィストに会う事ができた。
マルコにとっては、ティンフィストが人間ではなくスケルトンである事が意外だった。
「ロンゲンは死に、ヘフトは混乱のさなかにある。今こそ、グレートデザートで戦うときだ」
「あなたは人中の伝説だ、同志よ」
こうしてユニティと反奴隷主義者達は、同盟関係を築くにいたった。
二人は様々なことを話し合った。奴隷制度の要であったロンゲンやレディカナといった人物を失い、トレイダーズギルドは壊滅した。皇帝テングを失った帝国も、同じ道をたどるほか残されていない。奴隷主義者達を根絶やしにする意思を再確認し、マルコ達はこの地を後にした。
引き続き南東へと進路をとる。
道中、スナイパーバレーという名のついた谷を通り抜ける。
「誰かに見られているような気がする・・・」
ヘッドショットがそう呟いたものの、杞憂に終わった。特に何者にも出会わず、マルコ達は谷を抜ける。
「私の人間的な眼球には、お前達のような機械の狂信者達がグロテスクに映っているぞ」
カワハギたちの群れと遭遇したが、なんなく退ける。群れと出会うということは、もうすぐ奴らの本拠地に近いのかもしれない。絶命したカワハギを背に歩みを進める。
しかし、しばらく歩いたマルコ達の目に映ったのは、一面の銀世界だった。雪なのか灰なのか、白いモノが延々と大地に降り注ぐ。
マルコは思った。ここはどこかブラックデザートシティと雰囲気が似ていると。古代の遺物が立ち並び、各々が風化するときを待ちわびているその光景は、マルコの胸にどこか、迫るものがあった。
建物からは、カワハギではなく首の無いスケルトンが繰り出してくる。
彼らを倒し、身を探る。スケルトンのバーン曰く、鎧の形式から、第二の帝国時代に作られたものだという。
建物の内部も探索する。
倒した敵の中に、「農業の責任者」というスケルトンがいたことに、バーンは気がづいた。
バーンはそのスケルトンの頭部を調べる。そして、彼の悲しい生き様を知ることになる。
農業の責任者だったこのスケルトンは、第二の帝国を襲った数々の天変地異を予測することができなかった。大飢饉がおき、帝国が崩壊した今になっても、彼は自分のことを責め続けているというのだ。数千年のときが経った、この今でも。
「せめて安らかに眠るといい。君はもう何も守る必要がないのだ」
そう言ってバーンは亡骸から離れた。
続いて訪れた遺跡では、ハイドロリックナイトと呼ばれるスケルトンが姿を現した。マルコもバーンから話を聞いて、彼らのことをよく知っている。しかし、第二の帝国の時代に生きた彼らが、こうして目の前に現れている事実に二人は驚かざるを得ない。
奥で出会ったのは、歴史上有名なあの「ジャン将軍」である。北西部で勢力を広げるカニバルたちの間で「食べられないヤツ」と伝説になったあのスケルトンの戦士が今、マルコと対峙をしている。
将軍の繰り出すカタナの一振り一振りが、マルコの体力を容赦なく奪っていく。
思わず倒れこんだマルコを助けるべく、バーンとビープが将軍と対峙する。
皆が相当な深手を負いながらも、ついにジャン将軍を倒すことが出来た。
怪我の治療をしたあと、マルコはジャン将軍を外へと連れ出した。そう、彼の処遇をバーンと決めるためである。
バーンは将軍のCPUユニットを解析する。
「彼らはならず者やカニバルから帝国を守護すべく最前線で戦った。そして、彼らの勇敢さは伝説となった。しかし時が経つにつれて、「ならず者」というレッテルが乱用されるようになった。彼らはついに気付いたのだ、彼らが殺すべきならずものより、守るべきだった帝国臣民をはるかに多く殺してしまっている事実に」
事実を前に、マルコもバーンも黙りこくってしまった。
「バーン、俺からは何もいう事はない。将軍をどうするか、君に任せるよ」
バーンは静かに頷くと、将軍の頭からCPUユニットを抜き出した。
そしてこの瞬間、ジャン将軍の命は潰えたのだ。
バーンは果たして何を思っていたのだろう。同族に対する哀悼なのか、歴史の真実を知った高揚なのか、はたまた歴史という営みの無常さなのか。
戦いに生きたジャン将軍が、戦いで命を落とすのは本望だったに違いない。バーンはきっとそう思うことで、気持ちの整理をしたのだろう。
英雄の亡骸に、白い雪が積み重なっていく。皆はただ、その光景を見守るしかなかった。
つづく