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「帝国によって再興されたヘングから、襲撃部隊が送られてくる」
情報が入ったのは夜明け前のことだった。
マルコは最近手に入れたアサシンの装束に着替える。今まではサムライ鎧を着込んでいたが、こちらの方が動きやすく、体術に合うからだ。
朝になり、皆を門の前に集める。
マルコと防衛隊長のストークが、迫る脅威について説明する。
マルコは言う。これからの戦いは、ユニティという街の存亡をかけた重大なものとなる。
一度攻略したヘングは帝国によって再興され、街には活気と、我々への憎しみで満ち溢れている。そして今日この日、ついにトレーダーズギルドと共闘し、襲撃部隊をユニティへ送り込んでくる。
指揮官はアレクという、帝国でも名うてのサムライだ。せいぜい敵は5人ほどでしかないが、一人で数人を同時に相手できるほどのツワモノだろう。
一方、彼らを避けたところで、帝国の物量に変わりはない。さらに、トレーダーズギルドからも刺客が絶え間なく送られてくるだろう。中でもアイゴアという当代最強の傭兵が、我々の首を求めて地の果てまで追いかけてくるとの情報もある。
そしてユニティに迫る脅威は帝国とギルドだけではない。我々が倒したはずのホーリーネーションからも軍勢が送り込まれると情報が入った。
「つまり、我々はこの人数で大陸のほぼ半分以上を敵に回したということだ」
マルコはそう言って一度、言葉をとめる。
ユニティの面々がどういった反応をするか、じっと聴衆を見ている。
今なら逃げ出せる、そう考えるものもいるはずだろうし、それが人間の生存欲求からすれば極めて自然である。あえて引きとめようと彼も思っていない。
「ここで戦えば人類世界全体に破滅をもたらす結果になるかもしれない。そして、ここで逃げれば俺という人間が破滅するだろう」
「俺の為に、全世界の奴隷解放という悲願の為に戦ってくれ。卑劣な帝国貴族や奴隷商人、そしてフェニックスの亡霊を倒すんだ。今、世界の命運は我々の手の中にある」
意を決してマルコは言う。
「そう、賽は投げられたのだ」
聴衆からは割れんばかりの歓声が届く。
「ユニティ万歳!奴隷解放万歳!帝国貴族を倒せ!」
「奴隷商人を根絶やしにするぞ!」
「フェニックスをもう一度地獄に送れ!」
歓声はきっと、襲撃部隊の面々にも届いたことだろう。
しばらくして到着したサムライたちは、ストークの指示のもと放たれたハープーンタレットにより、門扉の前で無残な姿をさらすだけだった。
間髪入れず、ホーリーネーションの軍勢も街に迫ってくる。
指導者は大して名前の知られていない異端審問官のようだ。ヴァルテナやセタといった大物はすでにこの世に存在していない。
人材不足は確実にホーリーネーションを蝕んでいるはずなのだが、パラディンなどの中堅どころを含めてこれだけの軍勢を準備できるのだから、フェニックスの亡霊とは言え、侮れない相手だろう。
防衛隊長のストークは言う。
「敵の大将を狙え。あいつが死ねば、やつらも退却するだろう」
ハープーンタレットが決戦の火蓋を切った。
敵兵士達は門扉に向かって殺到する。
行商のハイブたちは我々の戦いを呑気に見つめているが、きっと街が陥落した後おこぼれに預かることが目的なのかもしれない。
扉は壊され、パラディン達が突撃してくる中、遊撃部隊も打って出る。
鉄グモが獅子奮迅の活躍を見せる中、もとサムライ隊長のヴァスやタロスが積極的に前に出る。
マルコも得意のカラテで敵を蹂躙していく。
次第に、敵の数も減ってきた。
そしてついに、敵の指揮官を倒すことが出来た。
すぐさま傷を負った仲間を治療する。
この戦いによって生み出された地獄を見て、マルコは何を思っただろうか。
ユニティでは、鉄グモ一体と、街の住人数名が犠牲となった。
血のにおいを嗅いだのか、人さらいたちがハイエナのように街へやってくる。
「愚かな連中だ」マルコはそうつぶやく。
ハイエナ達の死体も、ホーリーネーションの兵士に折り重なっていく。
こうして帝国とホーリーネーションの襲撃を避けることが出来たマルコ達。
しかし、各勢力の攻勢はやむ気配を見せない。
果たしてユニティはこの正念場を乗り越えることができるのだろうか。
つづく。