前回はこちら
ストーンキャンプから拠点に戻ったマルコは、レディカナを牢屋に閉じ込めた。彼女を人質にしておけば、いずれ役にたつ時がくるかも知れない。
「お前、必ず後悔するぞ」
強気な言葉で彼女は息巻く。
「アイゴアがお前を地の果てまで追いかけて殺すだろう」
マルコのもとにも、トレイダーズギルドが「貴族の怒り」という集団をユニティに寄こしているという情報が入っていた。それを率いるのはアイゴアという人物である。
拠点の防衛隊長をつとめるストークはその名前に聞き覚えがあった。極めて残虐で腕が立つ人物とのことで、依頼主の希望は何であれかなえてしまうという。
そしてその「貴族の怒り」はこのユニティをあと二時間ほどで攻撃する。
この時ばかりは遊撃部隊も街の防衛に加わる。また、ハープーンタレットの射手達も決戦に備えて持ち場に着いた。
しかしどういうことだろう。トレイダーズギルドによる襲撃は延期されてしまったのだ。
思わず拍子抜けしてしまった面々であるが、マルコにとっては、逆にこちらから攻撃を仕掛けてしまうチャンスのようにも思えた。
救援部隊が来ないことを知ったせいか、レディカナの態度は変わった。
「お前達が欲しいのは金か?」
「金ならいくらでもくれてやる!くそったれな街もやろう!」
ヤンからレディカナの発言を聞いたマルコは思った。俺たちが欲しいのは金でも街でもない。奴隷達の自由だ。すべての奴隷達が腐りきった帝国貴族の圧制から逃れる、それがマルコをはじめユニティ全体の総意である。
そしてマルコはヘング攻略を決意した。
ユニティからヘングまでの道のりは2時間もかからない距離である。
遊撃部隊が街の入り口に着いたとき、フリートレーダーズという見慣れない行商の一行に出くわした。
「殺すか殺されるかだ!」
リーダーのハーモソーなる人物が果敢に突撃してくる。どうやら我々がスケルトンを仲間にしていること自体が気に食わないらしい。
ホーリーネーションの連中と同じような排他性を感じたマルコ達は、手加減せずに彼らを切り伏せる。元はといえば彼らから売ってきた喧嘩である。容赦する必要はまったくない。数十分後、道は彼らの血で赤く染まっていた。
ヘングに入るまでに思わぬ戦いに巻き込まれた一行は、一度ユニティに戻って体制を立て直す。ハーモソーは一度連れ帰り檻に入れたが、彼に無駄飯を食わせるのも勿体ないと感じたマルコは、早々に彼を解放してやった。
フリートレーダーズとの友好度はマイナス5ということだが、またどこかで出会えば戦闘は避けられないだろうし、その時も返り討ちにするつもりだ。
そして数日後、ユニティの遊撃部隊はヘングの門の前にいた。
何故か前に見た顔もそこにいる。ハーモソーだ。
「おい、俺は一度警告しただろ!その薄汚いスケルトンをどっかにやれ!」
バーンはやれやれといった表情でハーモソーを見つめる。一体どちらの方が人間的なんだとマルコは思いながらも、彼のわき腹に拳を叩き込んだ。彼はもんどりうって転がっていったが、その後どうなったかはマルコの知るところではない。
街は練度の低いサムライがいる程度で、大した守りではなかった。
マルコは懐かしいような、不思議な気分で街を眺めている。ユニティがまだ小さかった頃には、このヘングの街にマルコは何度も足を運んでいた。毎週サムライ達が要求するみかじめ料を払うために、拠点で作った物産を売りに来ていたのだ。
マルコが税金を払う理由を問うたときの返答を、彼はしっかりと覚えている。
「はあ、まったく物分りが悪いやつだな。あんたがちっぽけな町を帝国の領内に建てたからだよ。あんたは交易で利を得て、帝国の軍隊の保護を受けてるんだ。しかも帝国の土地で勝手に農業をしているよな。これは帝国から盗みをしているのと一緒だぞ」
今やもう、ユニティは帝国に反旗を翻すに至った。ここまで長い道のりだったが、この時のツケを帝国に払わせていると思い、マルコの拳は一層硬く握られた。そう、まだ戦いは終わっていない。
激戦が続くなか、一人の貴族がのっそりとこちらに歩いてきた。
護衛の力量を過分に評価しているのだろう。嘲笑するような目つきでこちらを見て、その口を開いた。
「ひどい貧乏人のにおいがする!無礼者め!私にひざまずけ!」
それを聞いたヤコブはヨシナガに金的をくらわせた。
「この状況下でひざまずくべきはお前達だ」
元々サムライ徴兵軍の指揮官だったヤコブは容赦ない。正義感のあるサムライたちには、帝国貴族に反感を持つものも少なくないはずだ。
「くそったれ!」
痛みでヨシナガはのたうちまわる。
「すぐに別の痛みを与えてやる」
そういってヤコブは一太刀でヨシナガを切り伏せた。
ヘングの街を掃討した遊撃部隊は、次にトレイダーズギルドの本拠地を攻める。
捕らえられていた奴隷も解放する。トレイダーズギルドの庇護の下、堂々と商売をする奴隷商人や、無理やり人を誘拐するマンハンターなどを目の仇にしていたマルコにとって、願ってもない瞬間だった。
「俺の持ち主は死んだ!俺は自由だ!」
「次は足かせをはずしてくれ、まだ自由に動けない」
そしてついにマルコ達は拠点まで肉薄した。
が、そこにはトレーダーズギルドの首領であるロンゲンという人物はいなかった。この騒ぎの中、どこかに逃げてしまったのだろう。
一通り敵を倒した後、遊撃部隊はユニティに戻った。
これでヘング一帯における帝国の力は弱まったに違いない。
散発的にサムライ徴兵軍の襲撃はあったが、彼らは門の前で屍をさらすだけだった。
幾度かの襲撃の後、ヘングの様子を見にマルコが偵察に出た。
街を見下ろす高台に着くと、マルコはその光景に驚愕した。
なんと街は帝国の手によって再興されているではないか。
警察署や盗賊ギルドは破壊されているものの、サムライ達はあいも変わらず街を闊歩している。
トレーダーズギルドも以前と変わらず我々に刺客を差し向けようとしている。
これは一筋縄でもいかぬとマルコは思った。帝国の圧倒的物量にどう対抗するか。
「一度抜いた剣は収められないだろう、どちらかが死ぬまではな」
マルコはそうつぶやき、覚悟を新たにした。
つづく。