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島を泳いで渡った先にあったのは、ハイブたちが住む島だった。
薄紫色のフラスコのような形をしたものが、彼らの住居らしい。
この島に上陸する前に、マルコはスケルトンのバーンに相談していた。
ただでさえ排他的な集団だ、沢山の人数で押しかければ警戒される可能性が高いだろう。だから、足の速いマルコだけで上陸することにする。
住居の中に入ってみると、粗末なベッドと家具しかない、シンプルなつくりだった。
特に彼らはマルコ達に敵対心を持っているわけではなく、こちらのことをじっと眺めている。彼らがソルジャードローンだからなのか、特に何も会話はなかった。
こうして一つずつ中を調べていくうちに、その瞬間は訪れた。
「んぐああああああああああああああ」
「ええっへえっへぇええええええあ」
マルコが足を踏みいれた瞬間、つんざくような奇声で出迎えられたのだ。
あまりの威圧感に耐えかね、思わずマルコは一度建物の外に飛び出す。
今何か、普通のハイブではないモノがいたかもしれない。
好奇心と恐怖の間で動揺しながらも、マルコは再び建物に入る。
すると女王の椅子に、ハイブの女王が陣取っていたのだ。
「ええええええええええええええ!」
「どうして叫んでいるんだ?大丈夫か?」
「えええええええええええええ!!」
「あなたを傷つける意図はない。ただ話したいんだ」
女王はただ体を激しく揺らし、椅子の上で苦痛に悶えている。
いったいどうしたというのだろう。マルコが落ち着いて彼女の体を見ると、腹の部分に装置のようなものが据え付けられている。
「大丈夫でないことはわかった。君が叫ぶのをとめてあげたいんだが、何か手はないだろうか」
すると女王はすすり泣きを始めた。
マルコはただ、ため息をつくほかない。
スケルトンのバーンの提案で、試しにビープを巣に近づけてみた。
種族が同じハイブなら、分かり合える部分はあるかもしれない。
「ハイブの裏切りものめ!」
攻撃はされないものの、案の定ビープは追い返されてしまった。
それから人を変えて何度も話しかけようとしてみたものの、女王の態度は変わらない。
マルコはスケルトンのバーンや他の仲間と話しながら、思案に暮れる。
マルコが思うに、女王は科学技術が発達していた古代に延命手術を受けたのかもしれない。腹の機械が彼女の内臓を補助する役割を持っていて、体の健康を維持しているのだ。マルコの目には、スケルトンの部品の一部のようにも見える。
そうされる理由は「ハイブという種族の維持」だろう。
ハイブがどうやって今の形に生まれたのか、もしくは生み出されたのかは誰もわからない。マルコとしては、ソルジャードローン、ワーカードローンというように用途に分かれたハイブが存在すること自体、ハイブ種族の誕生に人為的な操作があるように思えてならない。
もし仮に、ハイブが人為的に生み出されたとしたら、その統率を取るには、女王を維持管理することが必要不可欠だ。だから、彼女を何千年も稼動させるために、スケルトンの装置を一部彼女に据え付けたのだ。
しかし、体の健康とは裏腹に、頭脳の方はすでに磨耗し錆びきってしまっているのかもしれない。彼女が正常なコミュニケーションを取れないことからも、それは明らかだ。時々自我を持ち彼女のコントロールから外れてしまうハイブがいるのも、フォグマンのように異常行動に走るハイブがいるのも、そのせいではないか。さらにハイブの村々を見ても、彼らはただあたりをうろつくだけで、明確な仕事や役割があるように見えない。おそらくハイブにとっても、女王の命令は不明瞭になってきているのかもしれない。
一方、マルコの目には、椅子に座ったり歩き回る女王に、僅かながら知性が残っているようには見える。
先ほどマルコが話しかけたとき、女王は苦痛に悶え涙を流すような姿を見せた。この時、女王はマルコの言葉を理解していたのだろうか。もし理解していたとしたら、彼女はマルコに、自身の苦痛を知らせたかったに違いない。
死ぬことも許されない地獄で何千年も味わってきた、この苦痛を。
仮にそうだったとしても、マルコにはそれを止める手段も権利もないだろう。
マルコ達はただ何もせず、この島を去ることになる。
いずれワールドエンドで研究が進み、ハイブたちの歴史が紐解かれたならば、この世界のために女王にどう働きかけるかも、決まっていくことだろう。
そのときまで女王が生きていればという仮定の上ではあるが。
つづく。