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マルコがフロットサムの街に着いたのは、夜明け前だった。
「そこのブラザー、止まりな」
鋭い目つきで一人のニンジャが話しかけてきた。
どうやらフロットサムの連中は、マルコのことをホーリーネーションの人間だと勘違いしているらしい。かの国では、お互いを呼びあう時にブラザーという敬称をつけるからだ。まあ、このニンジャにとっては皮肉なのであろう。
「俺達はすでにあんたを取り囲み、殺す準備が出来ている。あんたは圧倒的に不利だ。だから俺達に協力しろ。あんたは何者なんだ」
「これは取り調べなのか?」
「質問する権利はない。最後の警告だ、話せ」
「私は商人だ」
「商人か、ふん。あんたは運が良い。礼儀正しいカニバルの群れが生産業者を皆殺しにしたせいで俺達の備蓄は非常に少ない。村の中に交易所がある。商売して去れ。しかし、その前に一つ証明しろ。あんたがオクラナイトの狂信者ではないということだ。皇帝フェニックスに誓って、そしてあんたが信じる神に誓って、私に誓え、あんたはここに商売をしに来た。そうだろう」
「そうだ、あんたらの害にはならないよ」
「わかった。俺達の里にいる限り、あんたのことをずっと監視しているぞ」
こうしてマルコはフロットサムの街に入った。
マルコがフロットサムに来たのは、彼らの首領であるモルに会うためだ。決して行商が目的ではない。
手荒い歓迎を受けた後だったので、モルには簡単に会えないのではないかとマルコは考えていた。しかし、街はずれにある詰所をたずねると、そこにモルの姿を見つけることが出来た。
「この世界は平和だよ。人民は我々を火あぶりにしようとするか、生きたまま食べようとしている。しかし、カニバルにも一つだけ良いところがある。それは練習の的になるということだ」
一旦間をおいて、モルは話し続ける。
「とにかく、君は私の前にいる。何か聞きたいんだろう?何でも尋ねなさい。次の獲物が見つかる間で退屈だからな…」
「あなたがフロットサムニンジャの首領なのか。なぜこんな場所に街を作ったんだ?」
「なぜなら、ホーリーネーションも帝国も奴隷商人もいないからだ。カニバルたちが良い抑止力になっていてね。言うまでもなく、カニバルなどホーリーネーションと比べたらただの虫けらに過ぎない。我々が彼らをコントロールできる間は、だがな。私の唯一つの願いは、あの原始人たちがパンツのはき方を覚えることくらいさ」
「あなたがナルコの狂信者だと聞いた。本当にそうなのか?」
「ナルコの狂信者だって?笑わせる。君はホーリーネーションのでたらめな宣伝を読みすぎたんじゃないかね。一つの宗教には数百もの解釈方法が存在する。ホーリーネーションは沢山ある宗教のうちの一つでしかないし、彼らは単純に黒か白かでしか物事を判断できないようだ。」
「彼らの目には、我々が悪魔として生まれたように見えるだろう。それに、それらの偏見と戦うことで、さらに彼らの決め付けは厳しくなるものだ。宗教について不平不満をぶちまけることも出来るが、あえて君をうんざりさせることもないだろう…」
「そのまま続けてくれ」
マルコは本心でそういった。モルがここまで自分の考えを包み隠さず話すと思っていなかったし、マルコ自身、モルと考えが似ている面があったのだ。
「私のニンジャたちの大多数は聖なる土地から逃げてきた。彼らはオクラニズムをいまだに信仰している。しかし、教義の中身が違う。善良さや悪意といったものは存在せず、ただ生と死があるのみだ。もし君がナルコを信じるなら、我々の書物を読むと良い。正しいとされる考えなどないことがわかる。ただ、沢山の解釈手段があるだけなんだ。私自身が何を信じているかって?勿論、そんなものすべてガラクタだと思っているよ」
モルはそういって笑顔を見せる。たいした人物だとマルコは思った。偏見と暴力にまみれたこの世界において、モルほどバランス感覚を持った人間は少ないはずだ。そしてマルコはついに決心する。
フロットサムと結び、ホーリーネーションを倒す、その決心を。
Unityの総意をモルに伝える。
「すばらしい、世界は幸せな狂信者と、人肉を食らう原始人で満ちている。我々は沢山の同盟を結べないだろう。私に忠誠と、フェニックスに対する反逆を誓ってくれ。そうすれば私のニンジャたちはいつでも君を守ることを保証する。我々が手を取り合えば、ホーリーネーションを倒せるはずだ」
「わかった、誓おう」
「よし、これで君は我々の仲間だ。今からホーリーネーションのクソどもを根絶やしにしよう。無実のものは許しても良いが、パラディンや僧侶、そしてタワケの皇帝フェニックスに慈悲はない」
硬い握手の後、マルコはフロットサムの街を出た。
そして程なく、ホーリーネーションがUnityに向けて軍勢を送ったとの情報が入った。
「神の怒り」という軍勢らしい。異端審問官が率いるその軍勢は、個々の戦闘力が高いうえに、洪水のような人数でもって対象を虐殺するらしい。
フロットサムニンジャの動きも素早かった。
モルが率いる精鋭たちもUnityを目指す。
マルコに防衛を任されていたストークは、戦士達に語りかける。
ホーリーネーションとの戦いは避けられないこと。
奴隷解放という我々の目的を達するには、彼らと戦って打ち勝つほかないこと。
そしてこの戦いに勝てば、我々も無視できない勢力として世間に周知されるであろうこと。
もともとサムライの隊長を務めていた人物も、我々の部隊に参加している.。
また、ハープーンタレットは、古代の技術の研究によりさらに強化されている。
ストークをはじめ、戦士達は勝利を確信していた。
ホーリーネーションの軍勢より先に、モルが率いるフロットサムニンジャの軍勢が到着する。
「今日はホーリーネーションが没落する、我々の記念すべき日だ」
モルは続ける。
「我々は一緒に戦う、そして一緒に死ぬかもしれない」
「手を取り合い戦おう、友よ」
ストークが彼らを街の中へ招き入れる。
そしてついにその時が訪れる。
ホーリーネーションの精鋭部隊が到着した。
率いるのは「上級異端審問官」のセタなる人物だ。その残虐性はホーリーネーションの外でも十分に知られている。彼に付き従うパラディンも屈強な人物ばかりだ。
我々に余裕を見せながら悠然と歩いてくる彼らに対し、ストークはハープーンの一斉掃射を指示した。
「放て!!」
ついに戦いの火蓋が切っておろされた。
彼らはハープーンにひるみもせず突撃を繰り返し、瞬く間に門を突破する。
敵は勢いに乗るが、こちらも百戦錬磨の戦士ぞろいである。
そう簡単に街に入れさせない。
フロットサムニンジャと連携し、ひとり、またひとりと敵を地面に叩きつけていく。
後はセタだけだ。
ついにセタを倒すことが出来た。
大将を失った敵軍は敗走する。
後に残ったのは、殺戮の跡だけだった。
我々とて無傷ではない。幸い死者や体に障害が残った戦士はいなかった。
こうして、ホーリーネーションによる初めての襲撃を、無事に乗り越えることが出来たマルコたち。
次はこちらから攻撃する番だと、Unityの人民は息巻いている。
フロットサムと結んだUnityは、この大陸にどのような歴史を刻んでいくのだろうか。
つづく。