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帝国との戦いが終わり、平凡な日常が戻っていたある日のこと。
「ビープ」
見張り塔の上から、ビープはユニティの街をずっと見つめている。
ストークが不思議に思って話しかける。
「どうしたビープ?何か変なものが見えるか?」
「ぼくは さいきょうの しょうにん に なる!」
「ん、商人だって?」
思わずハープーンを持つ手が緩んだ。
「ビープは けんしとしては それなりに 強くなった!」
そういってビープはデザートサーベルの柄を撫でる。たしかにこの戦いの中で、このハイブの戦闘スキルはかなり上昇したはずだ。ストークも、久々に拠点に戻ってきたビープをみて、以前と体つきが変わったのはわかっていた。
「だから つぎは しょうばいを はじめる!」
やれやれ、また何か変なものでも食べたのかとストークも呆れ顔である。
しかし、どのような理由があるにせよ、商売を始めるのは悪いことではない。帝国との戦争も終わり、久々に平和な時を過ごしているユニティにとって、産業の育成に対する優先順位は上がっているようにストークも思う。
「やすく しいれて たかく うる!かんたんだ!!」
「・・・そうだなビープ。でも勝手にやればマルコやバーンに怒られるぞ。俺から話をしてあげるから、ちょっと待っていなさい」
「そうか、ビープは商売を始めたいと。何か悪いものでも食ったんじゃないか」
パンをかじりながらマルコはつぶやく。
「とてもビープに商売の才能があるようには見えませんな」
普段感情を見せないバーンも、この時ばかりはあきれた声を出す。
二人の反応をある程度予想していたストークは言う。
「確かにビープ一人ではつとまりますまい。しかし、戦争が終わったいま、ユニティが商売を始める良いチャンスじゃないかと」
「実は前から気になっていた事があるんだ」
マルコが険しい表情で言う。
「どうも奴隷農園が無くなってから、食糧の供給に問題があるように感じる。現にヘングの住民は皆、腹を空かせている。我々が儲けを得るのも大事だが、皆に食料がいきわたるようにするのも、戦争の勝者である我々の義務かもしれない」
ストークが言う。
「なるほど、マルコ。このユニティの食糧生産力を上げて、余剰の食料をヘングで売ればいい」
黙って話を聞いていたバーンも口を開く。
「そうであれば、古代の水耕栽培という技術を復活させれば良いと思う。屋内で作物を栽培できるから、天候に左右されないし、安定した供給が出来るだろう」
マルコは二人の発言に大きく頷いたあと、こう言った。
「その間に店の準備をしよう。確かトレイダーズエッジに物件が一つあったはずだ。そこを買い取って店にしよう。買い物だけではなくて、奥にバーを併設しておけば、きっと皆が入りやすい店になる。すぐ計画をビープに伝えてやろう」
早速、計画に基づいて彼らは動き始める。
トレイダーズエッジに赴いたマルコ、バーン、ビープの3人は、街を治める反奴隷主義者から建物を購入した。
ユニティから持ってきた資材を使って、建物を再建する。
がらんとしたこの部屋に、家具を置いていく。
椅子を作りながらバーンは言う。
「良い店というものは、食べ物の品質は勿論、やはり居心地が良くないといけない。ワシも南を冒険したときに、シャークにあるダンシングスケルトンという店をよく覗いたものだよ。もっとも、スケルトンにサケやツマミといったものは要らないがな」
「ちょっと ごみごみしたほうが いいかも!」
その頃ユニティでは、ストークの指揮の下、水耕栽培がスタートしていた。
バーンの言うとおり、電気がしっかりと供給されていれば、安定して作物を育てられている。今は小麦しか作れないものの、今後研究を重ねて稲などの他の作物も作っていくつもりだ。
こうしてトレイダーズエッジにユニティの店が完成した。
店の名前を決めるのに少々揉めたものの、発案者のビープの名前をとって、店は「ビープ商会トレイダーズエッジ店」と名づけられた。
「へい やすいよ やすいよ!」
「ユニティ めいさんの サボテンスティック だよ!」
「じゅくれんの しょくにんが てしおにかけて せいさんしているから きっと おいしいよ!」
ビープの声につられたのか、早速お客さんが入ってきた。
「やせいの スキマーの にくだよ!」
「じかびで ゆっくり やいたよ! おさけの おともに どうぞ!」
何も買わずに出て行ってしまった。
「つまみぐい ばれないかな」
「はらがへっては いくさは できぬ!」
ばれないように干し肉を食べるビープをみて、バーンは少しほほえましかったものの、果たしてこれが商売として成り立つか心配になってきた。
「ビープ、立ちっぱなしでは辛くないか。座ってお客さんが来るのを待っていよう」
バーンが作ってくれた椅子に座り、ビープは健気に客に話しかける。
しかし、一向にモノが売れない。
「ここまで流行らない店もめずらしいな・・・」
思わず警備員もつぶやく。
「何かこう、人が来たくなるような何かが必要だ」
マルコも心配になって知恵を絞る。
(例えば、あの大陸一の有名人に接客してもらうのはどうだろう...)
「覚えておけ!お前は必ず後悔するぞ!」
「覚えておけ!お前は必ず後悔するぞ!」
(考えてみたけどやはりだめだ。あの狂った皇帝がちゃんと店番をするように思えない。ひたすら客に喧嘩を売るスタイルの店なんて、大陸広しといえどそうないだろう。それに、恨みをもった輩が沢山押し寄せて暴れるかもしれない。やめておこう)
さて、どうしたものか。
バーンがつぶやく。
「しばらく無人の店で運営してみないか。その昔、東のほうにあった国の話だと、田舎の畑のあぜ道には時々新鮮な野菜が並んでいて、気に入ったものがあればオケにお金を入れて持って帰ったそうだ」
マルコも頷く。
「バーンの言うとおりだな。反奴隷主義者の警備員も立っていてくれるし、安心して任せられるよ」
「ビープ」
どことなく不満げにビープはつぶやく。
諭すようにマルコが言う。
「それならビープ、珍しい商品を仕入れに旅に出ないか。南東の方角はまだ訪ねた事が無い場所も沢山あるし、ヘングの住民が欲しがるものが見つかるかもしれないぞ」
「わかった マルコ。たびする しょうにんも わるくないね」
こうしてビープ商会トレイダーズエッジ店は、しばらくの間無人で運営されることになった。前途多難なビープ商会に明日はあるのだろうか・・・。
つづく